大阪地方裁判所 平成2年(ワ)5666号 判決 1992年11月26日
原告
宮城佳司
ほか三名
被告
株式会社藤坂鉄工所
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告宮城佳司に対し金九三三六万一九二八円及び内金八五三六万一九二八円に対する平成元年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告宮城光子に対し金一八〇万円及び内金一六〇万円に対する平成元年八月二八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告宮城佳司及び原告宮城光子のその余の請求並びに原告宮城君代及び原告宮城邦弘の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、被告らと原告宮城佳司との間ではこれを二分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告らの負担とし、被告らと原告宮城光子との間ではこれを六分し、その五を同原告の負担とし、その余を被告らの負担とし、被告らと原告宮城君代及び原告宮城邦弘との間では全て同原告らの負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、各自、原告宮城佳司に対し、金一億六六三一万九二一三円及び内金一億五六九一万九二一三円に対する平成元年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、各自、原告宮城光子に対し、金一一三〇万円及び内金一〇三〇万円に対する平成元年八月二八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、各自、原告宮城邦弘に対し、金三四五万五八〇〇円及び内金三二〇万五八〇〇円に対する平成元年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、各自、原告宮城君代に対し、金二九七万二九二〇円及び内金二七二万二九二〇円に対する平成元年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、自動二輪車で直進進行中に、対向右折してきた自動車に衝突されて負傷した者及びその親、兄弟が、加害車の保有者に対して自賠法三条、運転者に対して民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事件である。
一 争点になつていない事実
1 事故の発生 次の交通事故が発生した。
(一) 日時 平成元年八月二八日午前一〇時三五分頃
(二) 場所 大阪市大正区泉尾五丁目一六番地七号先交差点上
(三) 加害車 被告藤坂が運転し、被告会社が保有していた普通貨物自動車(なにわ一一さ四二五八号)
(四) 被害車 原告宮城佳司(昭和四四年六月一四日生)が運転していた自動二輪車(一なにわい四一一七号)
(五) 態様 被害車が本件道路を南から北に向けて直進進行中、対向右折してきた加害車と接触して転倒したもので、被告藤坂には過失がある。
2 治療の経過
原告佳司は、本件事故により、第四、第五胸椎骨折、脊椎(第四胸椎)損傷、第一頸椎骨折の傷害を負い、次のとおり入院治療を受けた。
(一) 多根病院
平成元年八月二八日(事故日)から平成二年四月九日まで
(二) 大阪労災病院
平成二年四月九日から平成三年一二月一〇日まで(甲一九ないし甲二六の各一、甲二九、原告宮城光子本人尋問の結果)
3 後遺障害
原告佳司には、乳頭部以下の体幹及び両下肢の運動・知覚完全麻痺の後遺障害が残存した(甲二八、甲二九)。
二 争点
1 過失相殺
(一) 被告ら
本件事故は、被告藤坂が加害車を運転して本件事故現場交差点を右折進行中、第二車線から第一車線に進路変更して直進してくる被害車を前方約五〇・九メートルの地点に発見し、危険を感じて停止したところへ、原告佳司が被害車に乗つて時速約一一〇キロメートル、少なくとも時速八〇キロメートル以上の高速度で車体を左右に振れさせながら直進を継続し、加害車の直前で左へハンドルを切つたが間に合わずに衝突したもので、原告佳司の前方不注視、高速度運転、ハンドル・ブレーキ操作不適当の過失が原因であり、その過失は、被告藤坂のものよりはるかに大きい。
(二) 原告ら
被告らの主張は争う。
被害車の速度は、せいぜい時速五〇キロメートルぐらいであり、既に右折の態勢で本件交差点の中央付近で一旦停止していた加害車が突然再発進して右折を開始したため、原告佳司としては、停車も回避もできずに衝突したものである。
2 その他損害額(特に自宅新築費・近親者慰謝料について)
第三 争点に対する判断
一 事故状況などについて
1 事実関係
(一) 前記争いのない事実に証拠(甲一〇、乙二ないし乙七)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 本件事故現場付近の状況は、別紙図面記載のとおりである。
本件事故現場は、南北に通じる道路と東西に通じる道路の交差する交差点内である。この交差点は、信号機により交通整理がなされている。
南北道路の車道は、片側二車線で、中央には幅一・二メートルの中央分離帯があり、北行きの通行帯の幅員は、第一(外側)車線が四・二メートル、第二(内側)車線が三・五メートルで、その西側には、幅員四・二メートルの歩道が設けられている。一方、本件交差点西側の東西道路は、片側一車線で、その両側には幅員四メートル以上の歩道が設けられている。
本件事故現場付近の道路は、いずれも平坦にアスフアルト舗装されており、本件事故当時の天候は晴で、路面は乾燥していた。
本件道路の最高速度は時速四〇キロメートルに制限されている。
(2) 被告藤坂は、加害車を運転し、本件事故現場の北側から本件交差点に至つた。一方、原告佳司は、被害車を運転し、本件事故現場の南側から本件交差点に至つた。
そして、被告藤坂は、本件衝突地点手前七・一メートル付近で右折合図をし一時停止した後、対向車がとぎれたものと誤信し、右折するため加害車を発進させたところ、本件衝突地点手前四・二メートル付近で北行き第一車線を直進進行してくる被害車を認め、危険を感じて急ブレーキをかけて衝突地点に停止したが、その直後、同所において、加害車の左前部と被害車の前部が衝突し、被害車及び原告佳司は同所付近に転倒した。
一方、原告佳司は、本件交差点手前で、停止中の加害車を認めたものの、そのまま待つてくれるものと考えてそのまま直進を継続した。ところが、加害車が右折進行しているのを認め、急ブレーキをかけたが間に合わずに衝突した。
本件事故現場付近の路面には、被害車のものと考えられるスリツプ痕が三・六メートルの長さにわたつて付着していた(実況見分調書(乙二)の交通事故現場見取図中、不動文字で「スリツプ痕」と印刷されているすぐ右側の「24・1」という記載は、その体裁からして、その欄のすぐ上の欄(<3>から<イ>の距離)の数値を訂正記入したものと認められる。)。
(3) 本件事故により、加害車は、左前面が凹損し、左サイドミラー、左フエンダーが破損し、左ドアが凹損したが、その損傷は極く軽微であつた。一方、被害車は、前輪カウル、ライトが破損し、前フオークが曲損し、メーター、左ミラーが破損したが、ほぼ原型を保つている。
(二) ところで、被告らは、被害車の速度が時速一一〇キロメートル、少なくとも、時速八〇キロメートル以上であつたと主張する。
しかしながら、被害車の速度が時速一一〇キロメートルであつたとする証拠は全くない。
また、衝突後被害車の速度計の針が時速七五キロメートル付近で止つており(乙二)、かつ、原告佳司は、取調べ警察官に対し、被害車の速度は時速約五〇キロメートルと思つていたが、右速度計の針が時速七〇キロメートルのところで止つているので、自分の認識は勘違いと思う旨供述している(甲一〇)。しかしながら、速度計の針は衝突の衝撃などにより移動することが多分に考えられるものであるから、それをもつて衝突時の速度を推認することは極めて危険であると考えられる。また、本件事故現場に残されていたスリツプ痕は三・六メートルと短いこと、衝突による双方車両の損傷は比較的軽微であること、衝突後には、被害車及び原告佳司は投げ出されることなく衝突地点に転倒していたこと(このことは、被告藤坂も認めているところである。)は、前記認定のとおりであつて、衝突時の速度が時速七五キロメートルに達していたとは考えがたく、むしろ、原告佳司が取調べ警察官に対し自己の認識として供述した時速五〇キロメートル程度を超えるものではなかつたと認められる。
なお、実況見分調書(乙二)の被告藤坂の指示説明及び被告藤坂の供述調書(乙三、乙七)中には、被告藤坂は、時速約一五キロメートルで右折中、左前方約五〇・九メートルの第一車線上を直進進行中の被害車を認め、急ブレーキを掛け、本件衝突地点において停止したところ、被害車が衝突してきたとする部分がある。そして、加害車が停止後、被害車が衝突したことは、原告佳司本人尋問の結果によつても認められるところである。しかしながら、停止後衝突までの時間的間隔について、被告藤坂の説明は、乙三では加害車が衝突地点で停止したとき被害車は左前方二四・一メートルのところにいたとしているのに対し、乙七では停止直後に衝突したとするなど食い違つているし、被告藤坂が危険を感じた際の被害車の位置についても、被告藤坂は被害車を衝突地点の南約五〇メートルの第一車線上に認めたとしているのに対し、原告佳司はその付近では被害車は第二車線上を進行していたとしている(甲一〇、同原告本人尋問の結果)ところ、被害車の速度が前記認定の五〇キロメートル程度であつたことを前提とすると、被告藤坂の説明は合理性を欠くと認められ、結局、被告藤坂の説明中、同人が左前方約五〇・九メートルの第一車線上を直進進行中の被害車を認め、急ブレーキを掛けたとする部分は、採用できない。
2 判断
以上の事実によれば、本件事故の原因は、被告藤坂が対向直進車の有無を十分に確認しないまま、右折を開始しようとしたことにあることは明らかで、被告の過失は大きいといわなければならない。
しかしながら、原告佳司としても、右折を行おうとしている加害車を認めながら、その動静を十分確認しないまま、そのまま直進を行おうとしたもので、原告佳司の側にも過失があるといわざるをえない。
そして、右認定事実から認められる双方の過失の内容、程度、衝突場所の道路状況等を考慮すると、原告佳司の過失は二割程度と認めるのが相当である。
二 損害について
右で認定、説示したことを前提として、原告らの損害について判断する。
1 原告佳司について(主張額二億二七三九万九〇一六円) 一億四一一三万七一五三円
(一) 治療費 二〇三万四二六五円
治療費のうち国保及び社会保険負担分を除く金額が二〇三万四二六五円であることについては、当事者間に争いがない。
(二) 入院雑費(請求額一〇八万五五〇〇円) 九一万八五〇〇円
前記争いのない事実に、甲二九及び原告佳司本人尋問の結果を総合すれば、原告佳司の症状は平成三年一〇月三一日固定したこと、しかしながら、その後もリハビリを行うため同年一二月一〇日まで大阪労災病院に引き続いて入院をしたことが認められる。したがつて、原告佳司の本件事故日から平成三年一二月一〇日まで合計八三五日間の入院を必要としたことになるところ、その間、入院雑費としては症状の経過などからして一日当たり一一〇〇円と認めるのが相当であるから、その金額は九一万八五〇〇円となる。
(三) 介護料(請求額六九九八万四六七〇円) 四四六六万五〇五〇円
前記争いのない事実に、甲一及び原告佳司及び原告光子各本人尋問の結果を総合すれば、原告は、身体を横たえた場合、腕の力で身体を引き摺つて移動すること、ベッド上で食事を摂ること、字を書くこと、車椅子用の洗面台を用い、片手ずつ行うことで洗面をすることは可能であり、ベッドから車椅子に乗ることはある程度可能であること、しかしながら、一人で立つたり、体位を変換したり、排便することはできないこと、そこで、原告佳司が大阪労災病院を平成三年一二月一〇日に退院した後は、平日の昼間の介護は知人から紹介された戸田寿々子に介護を依頼し、それ以外は、原告佳司の親、兄弟らが介護に当たつていることが認められる。
そして、以上に認定の事実によれば、原告佳司は、将来とも介護を受ける必要があり、その費用としては一日当たり五〇〇〇円が相当であるというべきところ、平成二年簡易生命表による二二歳男子の平均余命は五四・八歳であるから、昭和四四年六月一四日生れの原告佳司は、大阪労災病院を平成三年一二月一〇日に退院した後五四年にわたつて右程度の介護費用を要するものと認めるのが相当である。
そこで、右金額及び期間を算定の基礎として、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除し、右介護料の本件事故時における現価を算出すると、次の計算のとおり四四六六万五〇五〇円(一円未満の端数切捨て、以下同様)となる。
(計算式)
5000×365×(26.3354-1.8614)=44665050
(四) 逸失利益(請求額一億〇三二七万九二二二円) 六五五二万一八六七円
前記争いのない事実に、原告佳司及び原告光子各本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件事故当時、関西経理専門学校二年に在学中で、本件事故翌年の平成二年四月に同校を卒業し、株式会社興紀物産に就職する予定であつたことが認められる。
したがつて、原告は、本件事故に遭わなければ、六七歳に達するまでの四七年間にわたり就労が可能であり、その間、少なくとも毎年、平成二年賃金センサス産業計・企業規模計・高専短大卒男子労働者の二〇歳から二四歳までの平均賃金二七四万九三〇〇円程度の収入を得られたものと考えられるところ、本件事故による前記後遺障害により、その労働能力の全てを失うに至つたということになる。そこで、右金額及び期間を算定の基礎として、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除し、右逸失利益の本件事故時における現価を算出すると、次の計算のとおり六五五二万一八六七円となる。
(計算式)
2749300×23.8322×1.00=65521867
(五) 介護用品費(請求額三三万二七三三円) 三三万二七三三円
車椅子代一八万六九四五円及び医療用ベッド代一四万五七八八円が相当損害額であることについては、当事者間に争いがない。
(六) 自宅テーブル椅子代(請求額二〇万二二〇〇円) 一〇万円
原告は、自宅一階用食堂テーブル代九万七〇〇〇円及び二階用食堂テーブル代一〇万五二〇〇円を本件損害として請求する。そして、うち一〇万円が相当損害額であることについては、当事者間に争いがない。しかしながら、これを超える部分については、本件相当損害とは認められない。
(七) 自宅改造費(請求額二二五一万四六九一円) 三五六万四七三八円
原告らは、自宅が新築費用のうち、原告佳司が居住する一階部分及び四階のうちリハビリ室部分の工事・設備費用一二六〇万八四五三円並びに原告佳司の母である原告光子が居住・使用する二階部分及び四階共用部分の工事・設備費用の四割に相当する九九〇万六二三八円が、本件事故と相当因果関係のある自宅改造費用であると主張する。
そして、甲三五の七、検甲一の一ないし三七に原告光子本人尋問の結果を総合すれば、本件事故当時の原告方の廊下、各室出入口、階段、便所、洗面所、風呂場の幅員や広さは、原告佳司が車椅子で移動し、また、洗面所や風呂場に身体障害者用の設備を設けるには不十分な状態にあつて、鉄骨四階建床面積一階ないし三階各八四・六〇平方メートル、四階六五・八四平方メートルの原告方新居を新築したことが認められ、その新築は、その自体としては必要性のあるものであつたということになる。
しかしながら、その費用として、本件事故と相当因果関係が認められるのは、原告佳司の生活に適するように配慮したために特に必要となつた増加費用に限られ、通常要する建築費などはそれに含まれないものと解される。
そのような見地から甲三六を検討した場合、なるほど衛生工事費のうち身障者用便器代四二万六六〇〇円、身障者用洗面化粧台代三〇万七八〇〇円、身障者用シャワー及びバス水栓代合計六万三二八八円、住宅設備工事費のうち一階ガス風呂湯沸かし器代三一万七九〇〇円、バス代四〇万二七五〇円、蓋代八四〇〇円、施行費六万円の合計一三〇万六七三八円については、前記後遺障害のため、通常必要とされるものとは別個に原告佳司の生活に適するため設けられた設備の費用として、明らかに相当因果関係が認められる。また、エレベーター工事費四四八万円及びその電気工事費三万六〇〇〇円については、その便宜が原告佳司以外の者にも生じることからその五割(二二五万八〇〇〇円)をもつて本件事故と相当因果関係が認められることになる。
しかし、その余の費用については、ある程度の費用増加が考えられなくもないものの、その中には、健常者用と身障者用とに差異のないものが多く、また、身障者用品の中には、シャワー及びバス水栓のように、身障者用用品の価格が通常のそれ(合計八万五三二〇円)に比し、むしろ安い(合計六万三二八八円)ものがあるところで、原告宮城光子が供述するように四割程度の増加となるとは到底認められず、他にその程度を明らかにする証拠は存しない。したがつて、前記金額の合計三五六万四七三八円の限度では、本件事故と相当因果関係がある損害と認められるものの、その余についてはこれを認めることができない。
(八) 慰謝料(請求額三〇〇〇万円) 二四〇〇万円
以上に認定の治療経過や後遺障害の内容、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、本件事故による慰謝料としては二四〇〇万円と認めるのが相当である。
(以上(一)ないし(八)の合計は、一億四一一三万七一五三円となる)
2 原告光子について(主張額一〇三〇万円) 二〇〇万円
(一) 慰謝料(請求一〇〇〇万円) 二〇〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告光子は原告佳司の母であると認められるところ、前記認定の原告佳司の傷害及び後遺障害の内容及び程度からすれば、原告光子は、子の死亡にも比肩するような精神的苦痛を被つたことが認められることになる。そして、その他本件において認められる諸般の事情を考慮した場合、本件事故による慰謝料としては二〇〇万円と認めるのが相当である。
(二) 交通費(請求三〇万円) 〇円
原告らは、原告佳司の入院中、大阪労災病院と自宅を往復するに要した高速道路通行料金として右金額を要したと主張する。
しかしながら、右費用については、入院雑費として、既に認定評価済みであり、更に、これを認定することはできない。
(以上(一)及び(二)の合計は二〇〇万円となる。)
3 原告邦弘について(主張額三二〇万五八〇〇円) 〇円
(一) 慰謝料(請求額二五〇万円) 〇円
弁論の全趣旨によれば、原告邦弘は原告佳司の兄であると認められ、前記認定の原告佳司の傷害及び後遺障害の内容及び程度からすれば、原告邦弘としても、ある程度の精神的苦痛を受けたものと考えられる。しかしながら、本件全証拠によつても同人を民法七一一条所定の慰謝料請求権者と同視すべき特段の事情は認められないから、同人の慰謝料請求は理由がない。
(二) 交通費(請求額七〇万五八〇〇円) 〇円
原告らは、原告佳司の入院中、同原告を見舞うため、多根病院又は大阪労災病院と自宅を往復するに要した交通費(一回当たり六七〇ないし九九〇円)として右金額を要したと主張する。
しかしながら、右見舞は、近親者としての情愛の発露に基づくものと考えられるし、その一回当たりの金額などから考えても、それを個別に積算し、加害者において償還すべき性質のものとは認め難く、本件事故との相当因果関係は認められない。
4 原告君代について(主張額二七二万二九二〇円) 〇円
(一) 慰謝料(請求額二五〇万円) 〇円
弁論の全趣旨によれば、原告君代は原告佳司の姉であると認められ、前記認定の原告佳司の傷害及び後遺障害の内容及び程度からすれば、原告君代としても、ある程度の精神的苦痛を受けたものと考えられる。しかしながら、原告君代についても、本件全証拠によつても同人を民法七一一条所定の慰謝料請求権者と同視すべき特段の事情は認められないから、同人の慰謝料請求は理由がない。
(二) 交通費(請求額二二万二九二〇円) 〇円
原告らは、原告佳司の入院中、同原告を見舞うため、多根病院又は大阪労災病院と自宅を往復するに要した交通費(一回当たり一六〇ないし八四〇円)として右金額を要したと主張する。
しかしながら、右見舞は、近親者としての情愛の発露に基づくものと考えられるし、その一回当たりの金額などから考えても、それを個別に積算し、加害者において償還すべき性質のものとは認め難く、本件事故との相当因果関係は認められない。
三 過失相殺
前記認定の原告佳司の過失割合二割を自己又は被害者側の過失として斟酌し、以上に認定の原告佳司及び原告の光子の損害額から減ずるとその残額は、原告佳司について一億一二九〇万九七二二円、原告光子について一六〇万円となる。
四 損益相殺 二七五四万七七九四円
右金額が既払金であること(自賠責保険金二五〇〇万円、治療費二〇三万四二六五円、慰謝料名目四〇万円、雑費一一万三五二九円)は、当事者間に争いがない。なお、右二〇三万四二六五円を超える治療費(三三二万八六八五円)は、社会保険からの求償分であつて、当該社会保険負担分の治療費は、既に過失相殺前において損害から除外済みであるから、その余の金額のみが原告佳司の損害から損益相殺されることになる。
(以上、損益相殺後の残額は、原告佳司につき八五三六万一九二八円、原告光子につき一六〇万円である)。
五 弁護士費用(請求額・原告佳司につき九四〇万円、原告光子につき一〇〇万円、原告邦弘及び原告君代につき各二五万円)
原告佳司につき八〇〇万円、原告光子につき二〇万円
原告邦弘及び原告君代につき〇円
本件訴訟の審理経過及び結論によれば、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、右のとおりと認めるのが相当である。
第四 以上によれば、本訴請求は、本件交通事故に基づく損害賠償として、被告らに対し、原告佳司につき九三三六万一九二八円及びうち弁護士費用を除く八五三六万一九二八円に対する不法行為の日である平成元年八月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告光子につき一八〇万円及びうち弁護士費用を除く一六〇万円に対する前同日から前同様の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないことになる。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 林泰民 松井英隆 小海隆則)
別紙 <省略>